前回は主にインフルエンザのワクチンのことについてお話しましたが、今回はインフルエンザにかかってしまったあとに受ける治療に使用する抗インフルエンザ薬、「タミフル」についてお話したいと思います。
タミフルが本当に怖い薬なのかの根拠はまだわからない
2002年に抗インフルエンザ薬として登場した「タミフル」により、インフルエンザでの入院率が減少するなど、インフルエンザの診療は大きく変化しました。
また、インフルエンザ脳症の予防に一定の効果があるとの報告もあり、日本でのタミフルの使用量は飛躍的に増加しました。
その一方、2005年にタミフル服用後に異常行動をみとめ、事故死に至った小児のことが報告されると、まるで毒薬扱いのような報道がなされたため、インフルエンザの治療は混乱の度合いを深めています。
結論から言いますと、「タミフルの服用によって異常行動を起こすという科学的な根拠はいまだみとめられておらず、今後の調査を待たなければ結論づけられない」ということです。
実際に、約2900人の小児を対象にした調査では異常言動の発現率はタミフル使用群と未使用群の間に差がなく、またタミフルのどのような作用が異常行動に結びつくかは、いまだ解明されていません。
厚生労働省としては、異常行動を起こす可能性があるとの報告が出された以上、投与に慎重にならざるを得ないため、10歳以上の小児には投与を控えるようにお達しがなされています。
そのため、10歳以上の小児にはタミフルの投与ができないのが現状です。(10歳と決めているのは子供が1人でいても大丈夫で、保護者がずっとそばにいない可能性がある年齢だからです。)
では、投与できないことがこれほど問題になるタミフルという薬はどんなものなのでしょうか?
タミフルはあくまで熱による苦痛を和らげる効果
インフルエンザの感染を予防するものではない
抗インフルエンザ薬という名前から、インフルエンザウイルスを死滅させる薬と考えられがちですが、実際はウイルスに感染した細胞からそれ以上広がることを防ぐものなのです。(火事になった家は犠牲にして、周囲の家への延焼を防ぐようなものです)
ですので、タミフルを服用したとしてもすぐに熱が下がるわけではなく、発熱の持続時間が2~3日短くなるだけの効果しかありません。
つまり、タミフルはお子様の熱による苦痛を和らげるためには有用ですが、インフルエンザ感染を予防するものではないので、タミフルがなかった頃のように解熱するまで我慢させるというのも1つの選択肢です。
しかし、脳症への予防の可能性もあることや、熱でうなされている子供をみている保護者の精神的苦痛などを考えると、タミフルを使ってあげたいと思うのが本音です。
そこで現時点での私のお勧めとしては、以下のような方法が良いのではないかと思います。
10歳未満のお子様
今まで通りタミフルを飲ませる。
(ただし飲ませた時は必ず、少なくとも2日間は子供が1人にならないようにすることを守ってください)
10歳以上のお子様
タミフルと同じ作用で異常行動の危険性が低いとされている「リレンザ」という吸入する薬がありますので、それを投与する。
ご不明な点などありましたら、お尋ね下さい。